事業の全部または重要な一部の譲渡とは何か | 弁護士法人リコネス法律事務所

リコネスコラム

事業の全部または重要な一部の譲渡とは何か

1 はじめに

 今回は、会社法上、株主総会決議による承認が原則として必要になる「事業譲渡」とはどのような行為であるか紹介させていただきます。

2 事業譲渡とは何か

・事業譲渡とはどのような行為か

 事業譲渡とは、株式会社が「事業」を取引行為として他人に譲渡することをいいます。例えば、ある株式会社が、当該会社の事業の一部門を他の株式会社に売却する場合がこれに当たります。

 事業譲渡は、ある株式会社のもつ事業に係る財産やそれに付随する契約関係をまとめて他の株式会社などに譲り渡す契約です。例えば、化粧品メーカーが、化粧品を製造する工場、その工場に設置された機械などをまとめて他社に譲渡する契約があげられます。

・事業譲渡をするために必要なこと

 事業譲渡は取引行為です。したがって、通常の民法上の契約と同様に、株式会社とその相手方は、契約を締結することになります。また、民法上特別の手続が要求される場合には、その手続を踏む必要があります。具体的には、不動産の登記を具備すること(民法177条)や、債務引受けをするときの債権者の承諾を得ることがあげられます。

先ほどの化粧品メーカーの事例を例にとってみると、化粧品を製造する工場の敷地を譲り渡したときには、その敷地の所有権移転登記をしなければ、売却した他社は、第三者に対して自己の権利を主張できません。

 これに加えて、会社法467条1項1号ないし2号の事業譲渡に該当する場合には、株主総会決議による承認など、一定の手続を踏む必要があります。

・事業譲渡がなされた場合に株主総会決議が必要になる理由

 事業の譲渡がなされると、株主のために利益を生み出す部門がその株主の株式会社からなくなってしまうことになります。

 例えば、ある飲料メーカーがビール部門という事業を他社に売却した場合、そのビール部門から得られた利益はなくなってしまいます。そうすると、その分の収益は減少し、最終的に株主に配当される金額が減少するなどの影響がでます。

 以上のように、事業譲渡がなされると、その会社の株主の利益に重大な影響があります。そこで、会社法は、事業譲渡がなされると影響を受ける株主による承認を要求することにしました。

3 事業の譲渡とは何か

 事業譲渡は、上述のように、原則として株主総会決議の特別決議が必要になります。そして、このような事業譲渡に当たるといえるためには、譲渡の対象になる財産が事業としての実質を備えている必要があります。

 例えば、単に工場の建物を売却しただけでは事業譲渡には当たりません。事業が譲渡されたというためには、事業といえるための何かしらの条件が必要になるといえるでしょう。

 この点について、判示した最高裁の判例があります。そこで、以下では、最高裁の事業譲渡の定義について解説していきます。

・最高裁昭和40年9月22日大法廷決定

 「商法二四五条一項一号によつて特別決議を経ることを必要とする営業の譲渡とは、同法二四条以下にいう営業の譲渡と同一意義であつて、営業そのものの全部または重要な一部を譲渡すること、詳言すれば、一定の営業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産(得意先関係等の経済的価値のある事実関係を含む。)の全部または重要な一部を譲渡し、これによつて、譲渡会社がその財産によつて営んでいた営業的活動の全部または重要な一部を譲受人に受け継がせ、譲渡会社がその譲渡の限度に応じ法律上当然に同法二五条に定める競業避止義務を負う結果を伴うものをいうものと解するのが相当である。」

・最高裁の考える事業譲渡の定義

 この判示は、会社法が制定される前に出された判例です。商法245条1項1号が定めていた営業の譲渡が、現在の会社法467条1項1号にある事業譲渡に当たります。そこで、以下では、営業の譲渡を事業譲渡と読み替えて解説していきます。

 最高裁は、以下の3つの要件を要求していると考えられています。

 ①一定の事業目的のために組織化され有機的一体として機能する財産(得意先等の経済的価値のある事実関係を含む)の譲渡であること

 ②①により譲渡会社がそれまで当該財産によって営んでいた営業的活動を譲受人に受け継がせること

 ③譲渡会社がそれに応じて法律上当然に競業避止義務を負う結果を伴うものであること

・①の要件について

 単なる事業用の財産の売却、例えば、上述したような単なる工場の土地の売却のような場合は、一定の事業目的のために組織化され有機的一体として機能する財産とはいえません。

・②の要件について

 単なる事業用の財産の売却と区別されるポイントが②の要件になります。

 例えば、ゴルフ場会社がその財産のほとんどを譲受人に譲り受けたことが事業譲渡に当たるかが争われた裁判例があります(旭川地判平成7年8月31日判時1569号115頁)。この事案では、同種の事業を営む譲受人が、問題となった会社のゴルフ場の会員を引き継がないで、新規に募集していました。この場合に、裁判例は、事業活動の受け継ぎがないことから、事業譲渡性を否定しました。

4 まとめ

 以上でみてきたように、事業譲渡に該当するか否かは、上記の3つの最高裁の示した要件により判断されます。これら3つの要件は、抽象的で、わかりにくいです。具体的な事例が事業譲渡に該当するか否かについては、弁護士までお問い合わせください。

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