賃貸借契約の終了に基づく不動産明渡請求訴訟 | 弁護士法人リコネス法律事務所

リコネスコラム

賃貸借契約の終了に基づく不動産明渡請求訴訟

1 はじめに

 今回の記事では、以下のような事例を用いて、賃貸借契約の終了に基づく不動産明渡請求訴訟における訴訟物と賃貸借契約の終了を主張する際の請求原因事実について事例を用いて解説していきます。

事例

 Xは、自己が所有している甲土地をYに対して令和4年9月30日まで賃貸する賃貸借契約を締結し、その契約に基づいて、同土地を引き渡した。令和5年3月になっても、Yは甲土地を占有し続けている。そこで、XはYに対して、甲土地の明渡しを求める訴えを提起した。

2 訴訟物の選択について

 Xは、このような事例において、2つの訴訟物を選択することができます。

 まず、Xは、甲土地の所有権を有しています。そこで、甲土地の所有権に基づく返還請求権としての明渡請求権を行使することができます。

 この訴訟物を選択した場合の要件事実は、後日の投稿をご覧ください。

 次に、賃貸借契約の終了を理由とする不動産明渡請求権が考えられます。

 この権利は、賃貸借契約を締結する際に、借主が引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約束したことを根拠に発生する債権的請求権です。

 今回の記事では、この賃貸借契約の終了を理由とする不動産明渡請求権について解説していきます。

 なお、原告となるXは、どちらの訴訟物を選択することも可能です。

3 終了原因により訴訟物が異なるか

 賃貸借契約の終了原因には、事例のような賃貸借契約の期間の満了以外にも考えられます。たとえば、賃貸借契約が解除されてしまった場合などがこれにあたります。

 終了原因ごとに訴訟物が異なると考える立場があります。

 しかし、賃貸借契約の終了に基づく明渡請求権は、同契約を締結する際に、同契約の終了に基づいて借主が引渡しを受けた物を返還することを約束したことを根拠に発生する権利だから、終了原因自体の効果として発生する権利ではありません。

 以上のような理由から、1個の賃貸借契約の終了に基づく明渡請求権は、常に訴訟物が1個になります。そして、個々の終了原因については、単なる攻撃防御方法に過ぎないということになります。このような見解が通説になります。

 この見解にたつと、原告であるXが、終了原因についての主張を変更したいと考えたときに、訴えの変更をする必要はありません。

 以上のような見解にたつと、訴訟物は、「賃貸借契約の終了に基づく目的物返還請求権としての不動産明渡請求権」になります。

4 請求原因事実

 賃貸借契約は、「当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって」効力が発生します。

 したがって、賃貸借契約に基づいて目的物返還請求権を行使するためには、①目的物について賃貸借契約を締結したこと、そして、②①で締結した契約に基づいて目的物について引渡しを受けたことが必要になります。

⑴ 賃貸借契約の締結

 賃貸借契約の効力が発生するためには、賃貸人となる者が、「ある物の使用及び収益を相手方にさせること」を、借主が「相手方がこれに対してその賃料を支払うこと」と「引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還すること」を約束したことを請求原因事実として主張する必要があります。

⑵ 賃貸借契約に基づく目的物の引渡し

 賃貸借契約の目的物の返還を請求するためには、賃貸借契約に基づいてその目的物を使用収益できる状態においていたことが前提になっていると考えられます。そこで、賃貸借契約に基づいて目的物を引渡したことを請求原因事実として主張する必要があります。

 なお、被告が現在、目的物を占有していることは、目的物の返還請求権を行使するために要求される法律要件ではないと考えられます。その理由は以下のとおりです。

 賃貸借契約における借主は目的物を返還するという義務を負っています。仮に賃借人である被告が現在目的物を占有していなかったとしても、この義務を逃れる理由にはなりません。

 以上のような理由から、被告が現在目的物を占有していることを主張する必要はありません。

⑶ 賃貸借契約の終了

 最後に、賃貸借契約の終了事由について確認します。今回は、契約期間が終了したことが賃貸借契約の終了原因になっています。

 賃貸借契約の存続期間は、50年を超えることができないとされています(民法604条1項本文)。

 そして、賃貸借契約で50年を超える期間を定めたときであっても、その期間は50年になるとされています(民法604条1項ただし書)。

 以上から、契約期間が50年以下である場合には、存続期間を定めたこととその期間が経過したことを主張する必要があります。一方で、契約期間が50年を超えるときは、50年を経過したことを主張すれば足ります。

 今回の事例では、存続期間を令和4年9月30日と定めたことと、その日が経過したことを主張すれば足ります。

⑷ 事実記載例

 ア Xは、Yとの間で、甲土地を令和4年9月30日まで賃貸するとの合意をした(以下、本件賃貸借契約とする。)。

 イ Yは、本件賃貸借契約に基づいて、甲土地の引渡しを受けた。

 ウ 本件賃貸借契約を締結する際に、存続期間を令和4年9月30日までとすることを合意した。

 エ 令和4年9月30日は経過した。

5 最後に

 今回は、賃貸借契約が期間満了で終了したときの訴訟における訴訟物と請求原因事実を解説しました。具体的な事件の事実関係によっては、他の事実についても主張する必要がある場合があります。詳しくは弁護士までお尋ねください。

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