
よい ゴール0120-410-506
このコラムでは、一般的な民事事件において、相手方に対し、弁護士費用を請求することができるかについて、場合分けをして紹介していきます。
弁護士費用を相手方に請求できるかというご質問がよくあります。これに対する端的な回答としては、弁護士費用を請求できる場合と、請求できない場合があるというものになります。そして、ご相談いただいた事例が請求できる場合にあたるか、請求できない場合にあたるかを回答することになります。
今回の記事では、一般的な民事事件において典型的な2つの事例を用いて、どのような場合に弁護士費用を請求でき、どのような場合には弁護士費用を請求できないかを紹介させていただきます。
民事裁判の判決には、「訴訟費用は原告の負担とする。」「訴訟費用は被告の負担とする。」等の記載がみられることがあります。
この訴訟費用に弁護士費用も含まれていると考える方も多いかと思います。しかし、残念ながら、この訴訟費用の中に弁護士費用は含まれていません。
判決文に表れている訴訟費用という言葉は、民事訴訟法61条以下にある訴訟費用のことです。この訴訟費用は、当事者が裁判所を通じて国庫に納付する裁判費用と、当事者自らが支出する当事者費用を意味しています。例えば、訴状を提出する際に収入印紙を貼り付けることによって納付する申立手数料が裁判費用に当たります。
当事者費用とは、当事者が訴訟の準備および追行のために自ら支出する費用のうち、訴訟費用として法定されているもののことを意味しています。具体的には民事訴訟費用等に関する法律の2条に定められています。
同条には、弁護士の付添いが命じられたというような特別な事情がある場合には、弁護士費用を請求できるとしています。これを裏返して説明すると、そのような特別な事情がない通常の事件においては、弁護士費用は訴訟費用には含まれないことになります。
したがって、判決にある訴訟費用に、弁護士費用は含まれないということになります。
それでは、どのような場合に、訴訟費用を請求できるのでしょうか。まずは、判例が弁護士費用を相手方に請求できるとしている事件の類型から紹介していきます。
交通事故のような不法行為の類型においては、判例によると(最判昭和44年2月27日民集23巻2号441頁)、弁護士費用を相手方に請求することが認められています。
同判例では以下のように判示しています。
「相手方の故意又は過失によつて自己の権利を侵害された者が損害賠償義務者たる相手方から容易にその履行を受け得ないため、自己の権利擁護上、訴を提起することを余儀なくされた場合においては、一般人は弁護士に委任するにあらざれば、十分な訴訟活動をなし得ないのである。そして現在においては、このようなことが通常と認められるからには、訴訟追行を弁護士に委任した場合には、その弁護士費用は、事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものに限り、右不法行為と相当因果関係に立つ損害というべきである。」
要するに、不法行為の相手方から容易にその履行を受けることができなかったことから、訴えを提起することを余儀なくされた場合には、損害賠償を請求する人は、不法行為と相当因果関係が認められる範囲で弁護士費用を請求することができるとされています。
具体的に言えば、交通事故の被害者が、加害者から慰謝料等を支払ってもらえず、訴えを提起せざるを得なくなった場合には、その弁護士費用を請求できる場合があるということになります。
それでは、売買契約に基づいて土地の引渡しと登記の移転を請求する場合にはどうなるでしょうか。
この点については、最近、新たな判例が出ました(最判令和3年1月22日裁民265号95頁)。そこで、この判例について解説していきます。
判例の事案としては、簡潔に述べると、土地の買主が、土地の売買契約において売主が負う土地の引渡しや所有権移転登記手続をすべきことを求めるために、訴訟の提起・追行又は保全命令若しくは強制執行の申立てに関する事務を弁護士に委任した場合に、その費用を相手方に請求することができる権利が発生するか否かが争われていました。
この判例は、「土地の売買契約の買主は、上記債務の履行を求めるための訴訟の提起・追行又は保全命令若しくは強制執行の申立てに関する事務を弁護士に委任した場合であっても、売主に対し、これらの事務に係る弁護士報酬を債務不履行に基づく損害賠償として請求することはできない」と判示しています。
すなわち、売買契約の不履行に基づく損害賠償請求場合には、請求できません。
以上でみてきたように、交通事故のような不法行為の場合には相手方に弁護士費用を請求できますが、売買契約などの契約の不履行に基づく損害賠償請求の場合には相手方に弁護士費用を請求できません。
具体的な事件において、弁護士費用を相手方に請求できるかについては、弁護士までお尋ねください。