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賃貸借契約を結んだ後、実際に物件を確認すると、第三者が無断で使用していた――このような事態に直面したとき、賃借人はどのような法的対応を取ることができるのでしょうか。
この記事では、賃借人が第三者に対して物件の明渡しを求めたい場合に検討すべき法的手段を、民法の条文と判例をもとに丁寧に解説します。
Xは、Zが所有する甲土地上の建物を賃料月額10万円で賃借しました。ところが、Xが現地に赴いたところ、甲土地はすでにYが駐車場として利用していました。この場合、Xはどのような対応を取ることができるのでしょうか。
このような場合、賃借人(X)は、第三者(Y)に対して土地の返還を請求したいと考えるでしょう。民法上、以下の3つの手段が考えられます。
1 占有回収の訴え(民法200条)
2 賃借人の返還請求権(民法605条の4第2号)
3 債権者代位権の行使(民法423条1項)
それぞれの要件と実効性を確認しながら、どの方法が適切かを検討していきましょう。
占有回収の訴えを提起するには、以下の4要件をすべて満たす必要があります(民法201条3項)。
・ 原告が当該物を占有していること
・ 占有を被告に侵奪されたこと
・ 被告が現在目的物を占有していること
・ 占有を奪われてから1年以内に提起されたこと
しかし、事例では、Xはまだ土地を使用していないため「原告の占有」が認められません。したがって、この手段は使えません。
不動産賃貸借に基づく妨害排除請求権(民法605条の4第2号)を行使するには、次の5つの要件が必要です。
1 賃貸借契約の成立
2 目的物の引渡し
3 対抗要件の具備(登記または建物所有)
4 第三者による占有
5 第三者の占有が不法
この中で重要なのは「対抗要件の具備」です。事例では登記はされておらず、建物も所有していないため、要件を満たしません。結果として、この返還請求も難しいといえます。
債権者代位権とは、本来は債務者の財産保全を目的とする手段ですが、特定債権を保全する目的にも使われることがあります。
本事例でも、Xは賃貸人Zの「所有権に基づく返還請求権」を代位して行使することができます。実際に、最高裁判例もこの方法を認めています(最判昭和29年9月24日民集8巻9号1658頁)。
代位行使に必要な要件は以下の3つです。
・ Xの賃借権(被保全債権)の存在
・ 保全の必要性(転用型では要件ではない)
・ 所有権に基づく返還請求権の存在
さらに、占有者Yが「適法な権原」に基づかない占有であることを否定しない限り、Xの請求は認められます。
※関連コラム:保証契約について
(債権者代位と債権保全の関係をより詳しく知りたい方はこちら)
以上の検討をふまえると、賃借人Xが採るべき対応は「債権者代位権の行使」です。所有権に基づく返還請求を代位的に主張することで、実効性の高い対応が可能です。
もっとも、他の事案では「対抗要件の具備」によって直接請求できる場合もあります。事案ごとに判断が異なるため、具体的な対応に迷われた場合は、ぜひ弁護士までご相談ください。