インターネットでの名誉毀損はいつ処罰される?刑法230条の2と最高裁判例解説 | 弁護士法人リコネス法律事務所

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インターネットでの名誉毀損はいつ処罰される?刑法230条の2と最高裁判例解説

はじめに

 インターネット上での書き込みやSNS投稿は、瞬時に拡散し、大きな影響力を持ちます。

 しかし、その表現内容によっては名誉毀損罪に問われることがあります。

 本記事では、最高裁のラーメンフランチャイズ事件(最決平成22年3月15日・刑集64巻2号1頁)を例に、刑法230条の2の規定や名誉毀損罪成立の要件を詳しく解説します。

 また、民事上の責任について知りたい方は「名誉毀損行為をしたときに民事上のどのような責任を負いますか」も併せてご覧ください。

名誉毀損罪の基礎知識

(1) 名誉毀損罪の成立要件

 名誉毀損罪は、人の社会的評価を保護するための犯罪です。

 不特定または多数人に向けて社会的評価を低下させる事実を摘示したときに成立します(刑法230条)。

 詳細は「名誉毀損罪はどのような場合に成立しますか」でも解説しています。

(2) 刑法230条の2 ― 公共の利害に関する特例

 名誉毀損罪が成立しても処罰を免れる場合があります。それが刑法230条の2です。

 この条文は、名誉保護と表現の自由の調整を図るために設けられました。たとえば、新聞やネット記事などで社会的に重要な事実を報道する場合、たとえ名誉を毀損しても、公益性があれば処罰を免れる余地があるのです。

(3) 「罰しない」とは?学説の対立

 刑法230条の2第1項は「これを罰しない」と規定していますが、この意味について学説が対立しました。

 ・処罰阻却事由説:違法性は残るが、処罰を免れるにとどまると解する見解。立案担当者もこの立場を示していました。

 ・違法性阻却事由説(通説):公共の利害に関する場合は違法性そのものが否定されるとする考え方。

 処罰阻却説では「表現の自由の行使は違法」という不自然な評価が生じるため、今日では判例・通説ともに違法性阻却事由説を採ると理解されています。

(4) 適用要件

 刑法230条の2を適用するには以下の3条件が必要です。

 1.事実の公共性(公共の利害に関する事実であること)

 2.目的の公益性(公益を図る目的であること)

 3.真実性の証明(事実が真実であると証明できること)

 特に「証明」とは、被告人側が積極的に真実性を立証することを意味します。

 もし真偽不明に終わった場合は、この規定は適用されず、名誉毀損罪が成立します。

(5) 真実性の誤信と故意阻却

 では、事実が真実であると誤信していた場合はどうでしょうか。

 昭和44年6月25日の夕刊和歌山時事事件判決は、
たとい刑法230条の2第1項にいう事実が真実であることの証明がない場合でも、行為者がその事実を真実であると誤信し、その誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らし相当の理由があるときは、犯罪の故意がなく、名誉毀損の罪は成立しないものと解するのが相当である。
と判示しました。

 このように、真実性を誤信しても相当の理由があれば、故意が阻却され罪は成立しません。

 このテーマについては「事実が真実であると誤信していた場合に名誉毀損罪は成立しますか」でさらに詳しく解説しています。

ラーメンフランチャイズ事件の概要

 インターネットの個人利用者である被告人が、自己のホームページ上でA社(ラーメン店フランチャイズ)をカルト集団であると指摘する文章を掲載したところ、名誉毀損罪で起訴されました。

争点

 この事件では、新聞記者のような取材力を持たない個人利用者が、情報収集や裏付けを行うのは困難です。

 そのため、夕刊和歌山時事事件で示された「相当の理由」の基準よりも緩やかに考えるべきではないか、という点が最大の争点となりました。

最高裁の判断

 最高裁は、インターネット特有の拡散力や名誉回復の困難さを重視し、次のように判示しました。

 ・「個人利用者がインターネット上に掲載したものであるからといって、おしなべて、閲覧者において信頼性の低い情報として受け取るとは限らない

 ・「相当の理由の存否を判断するに際し、これを一律に、個人が他の表現手段を利用した場合と区別して考えるべき根拠はない

 ・「インターネット上に載せた情報は、不特定多数のインターネット利用者が瞬時に閲覧可能であり、これによる名誉毀損の被害は時として深刻なものとなり得ること、一度損なわれた名誉の回復は容易ではなく、インターネット上での反論によって十分にその回復が図られる保証があるわけでもないことなどを考慮すると、インターネットの個人利用者による表現行為の場合においても、他の場合と同様に、行為者が摘示した事実を真実であると誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らして相当の理由があると認められるときに限り、名誉毀損罪は成立しないものと解するのが相当

 つまり、インターネット上の発信であっても、真実誤信を理由に免責されるためには厳格な要件が求められるのです。

 この点については「名誉毀損罪の処罰を免れることができる場合はどのような場合ですか」の記事でも解説しています。

まとめと実務的ポイント

 ・ネット上での名誉毀損も、現実社会と同じ基準で判断される

 ・「相当の理由」の立証は極めて厳格に判断される

 ・公共性・公益性・真実性の3要件を満たすことが処罰阻却の鍵となる

 現代のSNS社会では、匿名の投稿が一瞬で拡散し、被害者の名誉が著しく損なわれるケースが増えています。

 一度広まった情報は完全に削除できず、名誉回復が困難になるため、投稿前に法的リスクを意識することが不可欠です。

 さらに、万一トラブルになった場合には、

 ・投稿のスクリーンショットや削除ログを確保する

 ・相手方の発信者情報開示請求に備える

 ・専門の弁護士に早期相談する

 といった対応が重要です。

 ネット社会における名誉毀損は、刑事責任・民事責任の双方を伴う可能性があります。

 軽い気持ちで投稿した一言が大きな法的責任につながることもありますので、常に注意が必要です。

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