
よい ゴール0120-410-506
今回は、使用者責任が成立する場合の逆求償について示した、最判令和2年2月28日民集74巻2号106頁について解説していきます。
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民法715条本文は、ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負うとしています。
このように、ある事業のために他人を使用する者が負う被用者が加えた損害を賠償しなければならないという責任のことを使用者責任といいます。
このように、使用者責任によって、使用者は被用者に代わって損害を賠償する義務を負うことになります。このような責任のことを代位責任と呼びます。
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それでは、なぜ、使用者は被用者に代わって損害を賠償しなければならないのでしょうか。この点について解説していきます。
使用者責任の根拠は、主に2つあげられています。報償責任の原理と危険責任の原理の2つがこれにあたります。
使用者は、被用者の活動によって利益を上げる関係にあります。このようにある活動をすることによって利益を得ている者は、これによって生じる損害についても責任を負うべきであるという考え方のことを報償責任の原理と呼びます。
使用者は、被用者を使用することによって、自己の事業範囲を拡張することができます。このように事業範囲を拡張すると、第三者に損害を生じさせる危険も増大させることになります。このように、使用者が被用者を使用することで危険を増大させているのだから、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負うべきだとする考え方を危険責任の原理と呼びます。
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使用者責任が成立した場合の使用者と被用者の関係について紹介していきます。
被害者に対して損害賠償を支払った使用者は、被用者に対して、その支払った額を使用者に支払うように請求することができます。このような請求権のことを求償権と呼びます。
民法715条3項は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げないとしています。
このように、使用者は、被用者に対して、自分の支払った賠償金の支払いを求めることができます。
このような請求が認められる理由は、使用者責任が代位責任だと考えられているからです。本来責任を負うべきなのは、被用者であり、使用者は代わりに支払をしています。したがって、使用者は代わりに支払った分を被用者に支払うよう求めることは当然できます。
ただし、事業者は被用者を使用することにより利益を得ていることから、事業から生じた損害のすべてを被用者が賠償しなければならないとするのは公平ではありません。そこで、使用者から被用者に対してする求償権は行使額が制限されることになっています。
判例も、「使用者が、その事業の執行につきなされた被用者の加害行為により、直接損害を被り又は使用者としての損害賠償責任を負担したことに基づき損害を被つた場合には、…信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求をすることができるものと解すべきである」としています(最判昭和51年7月8日民集30巻7号689頁)。
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紹介する判例では、使用者から被用者に求償をするのではなく、被用者から使用者に対して求償をすることができるのかが争われました。
判例は、「被用者が使用者の事業の執行について第三者に損害を加え,その損害を賠償した場合には,被用者は…損害の公平な分担という見地から相当と認められる額について,使用者に対して求償することができるものと解すべきである」としました。
その理由は、使用者責任の趣旨(報償責任・危険責任の原理)を踏まえると、使用者は第三者に対してだけでなく、被用者との関係でも損害を分担すべき場合があるからです。
以上のような理由から、被用者から使用者に対する求償、いわゆる「逆求償」が認められるとしたのが、この判例の特徴です。
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以上のように使用者責任が成立する場合には、使用者から被用者に求償できるだけでなく、被用者から使用者に対する「逆求償」をすることも認められます。
具体的な事案で使用者責任による請求が認められるかは弁護士までお問い合わせください。
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