専有部分と共用部分の区別 | 弁護士法人リコネス法律事務所

リコネスコラム

専有部分と共用部分の区別

1 はじめに

 今回は、マンションの管理人室が共用部分に当たるのかどうかについての判断を示した、最判平成5年2月12日民集47巻2号393頁の事案を紹介させていただきます。

2 事案の概要

 甲マンションの1階には、管理事務室と管理人室の2つがある。

 管理人室は、共用部分である玄関、ロビー、エレベーター及び階段に接している。そして、同室に隣接して、共用部分である管理事務室がある。

 管理人室は、和室二間、台所、便所、風呂場、廊下及び玄関出入口がある。また、同室内には、警報装置、配電盤、点消灯装置などの共用設備は存在しないし、電話も設置されておらず、鉄製で施錠可能な玄関ドアがあり、これを利用して、隣接する管理事務室を利用しないでも外部との出入りができる。

 管理人室の玄関・ロビーに面した側に開閉可能なガラス窓及びカウンターが設けられていて、本件マンションに出入りする人との応対やその監視ができる構造になっており、火災、溢水などの警報装置、配電盤、共用部分の電灯の点消灯装置などの共用設備が設けられている。

 管理人室の床と管理事務室の床との間には段差がなく、その境にあるガラス引戸を開閉して自由に行き来することができるようになっており、また、管理事務室には、管理人が常駐するのであれば不可欠の設備というべき便所がなく、管理関係の書類を保管する上でも支障が生ずるほど狭いものである。

 甲マンションの区分所有の対象となる居宅の販売に当たって頒布されたパンフレットや、右居宅の区分所有者と上告人東方商事株式会社との間の管理委託契約書に添付の管理費一覧表には、管理事務室の表示と共に管理人室の表示がある。また、甲マンションの設計図(仕上表)には、管理人室と前理事務室が一体として「管理人室」と表示されている。

 甲マンションを分譲した会社のグループ企業Y1が、この管理人室部分についての保存登記を経由しており、同じグループ企業のY2が、同室を占有している。

 甲マンションの1室を区分所有しているXは、管理人室も共用部分に当たると考えて、登記の抹消と管理人室の明渡しを求めたいと考えている。

3 争点

 この事案では、管理人事務室は専有部分に当たるか、それとも、共用部分に当たるかが争点になりました。

 共用部分に当たる場合には、甲マンションの区分所有者全員の共有に属することになります(区分所有法11条1項)。したがって、区分所有者は単独で保存行為として共有持分権に基づく妨害排除請求権としての抹消登記請求権を行使することができます。

 一方で、専有部分に当たる場合には、甲マンションの区分所有者は何らの権利行使もすることができません。

4 本件を理解する上での基本事項の確認

・専有部分と共用部分

 本件についての最高裁の判断を紹介する前提として、専有部分と共用部分とは何かを説明します。

 専有部分とは、区分所有権の目的たる建物の部分のことを言います(区分所有法2条3項)。

 共用部分とは、専有部分以外の建物の部分、専有部分に属しない建物の附属物及び規約により共用部分とされた附属の建物をいいます(同法2条4項)。

・専有部分に当たるための要件について

 専有部分に当たるためには、区分所有の目的となる資格を充たしている必要があります。そして、その要件は区分所有法1条が定めています。

 区分所有法は、次のように定められています。

 「一棟の建物に構造上区分された数個の部分で独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができるものがあるときは、その各部分は、この法律の定めるところにより、それぞれ所有権の目的とすることができる。」 この文言から、構造上の独立性と利用上の独立性という2つの要素が認められてはじめて区分所有の目的としての要件を充たすことになると考えられます。

5 最高裁の判断

 最高裁は、上記の甲マンションのような事実関係に着目して、以下のように判断しました。

 「本件マンションは、比較的規模が大きく、居宅の専有部分が大部分を占めており、したがって、本件マンションにおいては、区分所有者の居住生活を円滑にし、その環境の維持保全を図るため、その業務に当たる管理人を常駐させ、多岐にわたる管理業務の遂行に当たらせる必要があるというべきであるところ、本件マンションの玄関に接する共用部分である管理事務室のみでは、管理人を常駐させてその業務を適切かつ円滑に遂行させることが困難であることは右認定事実から明らかであるから、本件管理人室は管理事務室と合わせて一体として利用することが予定されていたものというべきであり、両室は機能的にこれを分離することができないものといわなければならない。そうすると、本件管理人室には、構造上の独立性があるとしても、利用上の独立性はないというべきであり、本件管理人室は、区分所有権の目的とならないものと解するのが相当である。」

 最高裁がいう、管理人室と管理事務室は機能的に分離することができないという評価は、4で記載した専有部分にあたるための要件のうち、利用上の独立性を充たさないことを意味しているものと考えられます。そして、そのような理由から、管理人室は、共用部分にあたると判断をしました。

6 まとめ

 以上のように、甲マンションの場合には、管理人室は共用部分にあたります。しかし、具体的な事案によっては、管理人室であったとしても、専有部分にあたるという判断が出される可能性もあります。

 個別具体的な事案において、マンションの管理人室が共用部分にあたるか、それとも専有部分にあたるかについては、弁護士までお問い合わせください。

関連記事

  1. 賃貸借契約の終了に基づく不動産明渡請求訴訟
  2. 事業の全部または重要な一部の譲渡とは何か

最近の記事

弁護士 安間 俊樹
弁護士 守田 佑介
弁護士 加藤 久貴
弁護士 安間 俊樹
護士 守田 佑介
弁護士 加藤 久貴
PAGE TOP