文書提出命令が発令される要件について | 弁護士法人リコネス法律事務所

リコネスコラム

文書提出命令が発令される要件について

1 はじめに

 今回は、文書提出命令が発令される要件について紹介させていただきます。

2 文書提出命令の制度について

⑴ 書証の申出について

 文書の証拠調べのことを書証と呼びます。

 

 そして、書証の申出の方法は、3つあります。

 その文書を用いてある事実があったことを証明したいと考えている者、すなわち、挙証者が自ら文書を所持している場合には、文書を提出して行うことができます(民事訴訟法219条)。

 

 一方で、挙証者が文書を所持していない場合には、文書送付の嘱託の申立て(民事訴訟法226条)を行う方法と文書提出命令の申立て(民事訴訟法221条)を行う方法の2つがあります。

 これら3つの制度の詳細については、こちらをご覧ください。

⑵ 文書提出命令の発令要件

 文書提出命令が発令されるための要件としては、証拠調べの必要性(民事訴訟法181条)が認められることと、文書の所持者に文書提出義務が認められること(民事訴訟法220条)の2つがあげられます。

⑶ 証拠調べの必要性について

 民事訴訟法181条1項によると、裁判所は、当事者が申し出た証拠で必要でないと認めるものは、取り調べることを要しないとされています。

 このように、文書の証拠調べの申し出たとしても、その必要がないと裁判所が判断したときには、文書の取調べを行わなくてよいことになります。そして、取調べを行わない文書について提出命令を出すことは無駄なので、証拠調べの必要性が認められないときには、文書提出命令は発令されないことになっています。

 ある文書について証拠調べの必要性が認められるのは、対象となる文書の記載内容について要証事実との関連性が認められるときに、当該文書について証拠調べを実施することが要証事実を認定するために必要である場合です。

 例えば、ある要証事実について裁判所の心証が既に決まっているというときには、その文書について証拠調べを実施することが要証事実を認定するために必要とはいえないことから、証拠調べの必要性は認められないことになります。

 この証拠調べの必要性が認められるか否かの判断は、受訴裁判所の専権に属すると考えるのが通説的な見解です。

 その理由は、対象となる文書の記載内容が要証事実と関連しているか否かの判断や、当該文書について証拠調べを実施することが要証事実を認定するために必要か否かの判断は、当該事件について審理している受訴裁判所の判断に任せることが最も適当だといえるからです。

 そして、証拠調べの必要性を欠くことを理由としてなされた文書提出命令の申立てを却下する決定に対しては、即時抗告をすることはできません(最判平成12年3月10日)。なぜならば、証拠調べの必要性についての判断は、受訴裁判所の専権だからです。

3 文書提出義務について

 以下では、証拠調べの必要性と並ぶ文書提出命令申立ての要件である文書提出義務についてご紹介させていただきます。

⑴ 文書提出義務とは

 民事訴訟法220条1号から4号にまで定められた事由に該当するときは、文書の所持者に文書提出義務が認められることから、文書提出命令が発令されます。

 特に、民事訴訟法220条4号は、イからホに定められたいずれの事由にも該当しない場合には、文書を提出しなければならないとされています。

 したがって、220条4号の文書に該当する文書は広く文書を提出することが要求されているといえます。

⑵ 1~3号と4号との関係

 それでは、民事訴訟法220条1号から3号までと、4号とはどのような関係にあるのでしょうか。

 4号は、イからホの事由に該当する場合には、文書の提出を拒否できるとしています。それでは、1号から3号までの文書に4号のイからホまでの事由が認められる場合に、文書の所持者はその提出を拒むことができるのでしょうか。

 この点については、学説上もさまざまな考え方が提唱されています。

 ここでは、1つの考え方をご紹介させていただきます。4号が「前三号に掲げる場合のほか」と定めていることを踏まえて、4号イないしホの事由については、1号ないし3号に類推適用されることはないと主張している立場があります。

 この点について、判例は個別の事由ごとの判断しか示していません。

 例えば、銀行の貸出稟議書が4号ニの定める自己利用文書に該当する文書に該当するかが争われた事件において、最高裁は、自己利用文書に該当する以上は、3号後段の法律関係文書には該当しないということを示しています(最判平成11年11月12日民集53巻8号1787頁)。

 以上のように、1~3号までの文書提出義務と4号のイ~ホまでの除外事由との関係について、最高裁には明確な基準が用意されていないです。

4 結論

 以上のように、文書提出命令が発令されるための要件は、①証拠調べの必要性が認められることと②文書の所持者に文書提出義務が認められることの2つの要件になります。

 個別の事案において、文書提出命令をすべきか、そして、すべきとしてどのような主張をすべきかについては、弁護士までお問い合わせください。

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