
よい ゴール0120-410-506
今回は、民事訴訟における現在の給付の訴えの利益について紹介させていただきます。
訴えの利益とは、訴訟要件のうちの一つです。それでは、まず、訴訟要件とはどのような考えであるかを確認していきましょう。
民事訴訟において、裁判所は、原告の主張している私法上の権利または法律関係の存否について判断します。このような権利関係の存否についての判断をする判決のことを「本案判決」と呼びます。
そして、この本案判決をするための要件が訴訟要件です。したがって、訴訟要件は、訴訟を成立させるための要件ではありません。
また、訴訟要件を欠くと考えられる場合にも、本案判決をするための審理を行うことは許されています。訴訟要件は審理を進行するための要件はなく、あくまでも、本案判決をするための要件にすぎないということに注意をする必要があります。
訴訟要件を欠いている場合に、裁判所は、訴え却下判決をすることになります。
→ 関連記事:補助参加における参加の利益
訴訟要件には、例えば、国際裁判管轄があることや、当事者が実在すること、当事者能力や当事者適格が認められることなどがあげられます。
これらの訴訟要件については、職権調査事項であるとされています。職権調査事項とは、当事者の指摘がなかったとしても、裁判所が職権で取り上げて判断できる事項のことを言います。
したがって、訴訟要件があるかないかについては、裁判所が自ら取り上げて判断を行うことになります。
訴えの利益とは、本案判決をすることが必要か否かという必要性と、本案判決をすることで私的紛争が解決されるか否かという実効性とを見る訴訟要件のことです。
訴えの利益は、審理判断の対象とされた原告の主張している権利または法律関係の存否についての判断をすること、すなわち、審判対象とされた請求についての本案判決をすることが、紛争の解決にとって必要で、有効かつ適切といえるような場合に認められることになります。
そして、訴えの利益がないものとされた場合には、訴訟要件を欠くこととなり、訴え却下の判決がなされることになります。
このような訴えの利益は、まず、確認の訴えから発展してきました。
確認の訴えは、どのような事実でも権利でも法律関係でもその対象とすることができます。そうすると、無益な確認を行う者もあらわれてきます。そこで、裁判所が判断を示すに値する訴えに限定する必要がでてきました。
→関連記事:裁判上の自白について
訴えの利益には、2つの視点から判断されています。
・請求の内容が本案判決を受けるのに適しているか否かという視点
・原告がその請求について本案判決を受ける必要性があるか否かという視点
前者のことを、請求適格または権利保護の資格と言います。
後者のことを、権利保護の利益と言います。
給付の訴えは、原告が給付を請求できる法的地位にあると主張する訴えの類型です。このうち、現在の給付の訴えとは、事実審の口頭弁論終結時点において原告が給付を請求できる権利が生じている場合の給付の訴えを意味しています。
現在給付の訴えにおいては、事実審の口頭弁論終結時点で原告の主張する給付請求権が履行すべき状態になっているときの給付の訴えであるといえるでしょう。
→関連記事:所有権に基づく不動産明渡請求訴訟の請求の趣旨と訴訟物について
現在の給付の訴えの利益は、原則として認められます。
例えば、次のような判例があります(最判昭和41年3月18日民集20巻3号464頁、民事訴訟判例百選[第6版]19事件)。
事案の概要は次の通りです。
Xの所有している建物の登記が、Y1からY2、Y3名義へと移されました。そこで、各人に対して抹消登記手続請求をしたところ、このうち、Y3に対する請求が認められなかったという事案です。
このような事案において、Y3に対して登記の抹消を求めることができない以上、Y1やY2に対して登記を戻すことを請求しても意味がないように思われます。そこで、Y1・Y2は、訴えの利益がないから、XのY1・Y2に対する訴えは却下されるべきだと主張しました。
これに対して、最高裁は次のように判断しました。
「不動産登記の抹消登記手続を求める請求は、被告の抹消登記申請という意思表示を求める請求であつて、その勝訴の判決が確定すれば、それによつて、被告が右意思表示をしたものとみなされ(民訴法七三六条〔筆者注:現行民事執行法174条に相当〕)、その判決の執行が完了するものである。したがつて、抹消登記の実行をもつて、右判決の執行と考える必要はないから、右抹消登記の実行が可能であるかどうかによつて、右抹消登記手続を求める請求についての訴の利益の有無が左右されるものではない。」
このようにして、訴えの利益が認められるという判断が示されました。
→関連記事:和解とはどのような契約ですか
現在の給付の訴えが例外的に認められない場合があります。
それは、すでに給付判決を得ている場合です。このような場合には、二重に強制執行ができるという危険を生むことから、訴えの利益が認められません。
ただし、消滅時効の完成猶予をするために必要がある場合などは例外的に訴えの利益が認められます。
→関連記事:相手方に弁護士費用を請求できるか
以上のように、原則として現在の給付の訴えについては、訴えの利益が認められます。ただし、上述のように、具体的な事案によっては、認められない場合もあります。
民事訴訟の提起の方法に関してお困りの方は、弁護士までお問い合わせください。
→関連記事:文書提出命令が発令される要件について