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今回は、弁論主義の第1テーゼとはどのような考え方であるかについて紹介させていただきます。
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弁論主義の第1テーゼは、弁論主義の考え方から導き出されるものです。そこで、まずは、弁論主義の考え方がどのようなものであるかを確認していきます。
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弁論主義とは、判決の基礎となる事実の確定に必要な資料の提出を当事者の権能かつ責任とする考え方のことをいいます。
事実の確定に必要な資料とは、事実の主張と証拠の申出のことを指しています。
民事訴訟では、原告が主張している権利または法律関係を発生させる法律要件に該当する具体的事実を主張して、その事実があったことを証拠に基づいて証明することによって、原告の主張する権利関係の存否について判断をするという方法で審理が行われています。このような民事訴訟の構造を踏まえると、事実の確定に必要な資料は、事実の主張と証拠の申出を意味することになります。
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弁論主義に対置される考え方として、職権探知主義があげられます。事実の確定に必要な資料の探索を当事者だけでなく裁判所の職責でもあるとする考え方です。このような考え方を採用している場面として、人事訴訟があげられます。
人事訴訟の場面においては、職権探知主義が採用されており、それを示す条文も用意されています。例えば、人事訴訟法19条は、裁判上の自白の効果を生じさせないことを定めています。また、同法20条は、人事訴訟においては、裁判所は、当事者が主張しない事実をしん酌し、かつ、職権で証拠調べをすることができるとしています。
条文解釈上は、人事訴訟法20条のような職権探知主義を定める規定が設けられていないことから、弁論主義が採用されていると解釈することもできます。
弁論主義が採用された根拠については、学説上さまざまな争いがあります。ここでは、そのうち、1つの考え方を紹介させていただきます。
民事訴訟は、原告の主張している私法上の権利又は法律関係の存否について判断をするものです。この私法上の権利または法律関係は、私的自治の原則の考え方が支配しています。このように、民事訴訟の審判対象は、私的自治の考え方が支配する空間です。
私的自治の原則とは、国家権力から介入を受けることのない権利を保障していることを意味しています。このような私的自治の原則の考え方が採用されている権利または法律関係の存否について争われている民事訴訟の場においても、国家から介入されない権利を保障する必要があることから、弁論主義が採用されたと考えられています。
以上でみてきたような弁論主義の考え方から、弁論主義の3つのテーゼが導き出されます。
弁論主義の第1テーゼとは、「裁判所は、当事者の主張していない事実を判決の基礎としてはならない」という考え方です。
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弁論主義の第2テーゼとは、「裁判所は、当事者間に争いのない事実を判決の基礎としなければならない」という考え方です。
弁論主義の第3テーゼとは、「裁判所は、当事者間に争いのある事実について証拠調べを行うときは、当事者の申し出た証拠によらなければならない」という考え方です。
最後に、弁論主義の第1テーゼが適用される対象について検討していきます。
弁論主義の第1テーゼとは、「裁判所は、当事者の主張していない事実を判決の基礎としてはならない」という考え方でありますが、ここにいう「事実」とは、主要事実に限定され、間接事実や補助事実を含まないと考えるのが通説的な見解です。それでは、通説的な見解は、なぜ主要事実に限定しているのでしょうか。
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主要事実とは、訴訟物たる権利関係の存否を直接基礎づける事実、すなわち、権利の発生・変更・消滅という法律効果を判断するのに直接必要な事実のことを意味しています。
これに対して、間接事実は、主要事実を推認させる事実のことです。
また、補助事実は、証拠の信用性に対して影響を及ぼす事実のことです。
主要事実は、訴訟物たる権利関係の存否を直接基礎づける事実であることから、原告は主要事実を主張することによってはじめて権利の主張を基礎づけることができます。そうすると、審判対象である権利関係の主張について国家の介入を阻むためには、権利の発生を直接基礎づける事実の主張について国家から介入を受けない必要があります。したがって、主要事実に弁論主義の第1テーゼを適用することは、まさに私的自治の原則を貫徹するために必要なものといえるでしょう。
間接事実は、証拠と同じ役割を持ちます。そして、当事者が主張していないこの間接事実が判明した場合には、この事実を利用することができなくなってしまいます。そうすると、裁判官は、不自然な事実認定を強いられることになり、自由な心証を十分に発揮できなくなります。
以上のような理由から、間接事実は弁論主義の第1テーゼの適用対象から除外されると考えられています。
以上が、弁論主義の第1テーゼの考え方の概要になります。
民事訴訟の場面においては、民事訴訟法の条文には書かれていない概念も多く用いられることから、どのような立ち回りをすべきかわかりづらいこともあります。
民事訴訟の具体的な事件においてお困りの方は弁護士までお問い合わせください。
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