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この記事では、前科があることが刑事裁判にとってどのように不利に働くかについて紹介します。
刑事裁判では、まず、検察官が主張している犯罪の構成要件、すなわち刑法等の法律の要件に該当する具体的事実の有無について判断をします。その後、犯罪が証明されたときには、その被告人のどのような刑を科すことが適当であるかの判断、すなわち、量刑判断を行います。
この量刑判断の際には、被告人の行為にどのような刑を科すべきかという行為責任主義のもと、まず第一に、犯罪に関連する事実、すなわち犯罪事実がどのよようなものであるかを重視します。
公訴事実の立証の場面においては、前科を考慮することが認められている場合とそうでない場合があります。例えば、常習性を基礎づけるための事項については、前者に当たります。そこで、2つの具体的な場面に分けて、以下では前科がどのように考慮されるかを紹介していきます。
犯人性とは、起訴された被告人が、検察官が主張している構成要件に該当する具体的事実を行った犯人であることを意味しています。平たい言葉で言えば、被告人がその事件の真犯人と言えるかという点です。
そして、犯人性を認定するときは、前科があることを原則として利用できないとしているのが判例の立場です。
ここでは、その判例について紹介します(最判平成24年9月7日刑集66巻9号907頁)。
この判例は、放火の犯人として起訴された被告人が、真犯人であるかを立証するために、前科を証拠とすることが争われたという事案です。
この事件で、最高裁判所は、以下のように判示しました。
「前科証拠を被告人と犯人の同一性の証明に用いる場合についていうならば、前科に係る犯罪事実が顕著な特徴を有し、かつ、それが起訴に係る犯罪事実と相当程度類似することから、それ自体で両者の犯人が同一であることを合理的に推認させるようなものであって、初めて証拠として採用できるものというべきである。」
これは、前科があるという理由で被告人が犯人であるというためには、①前科に係る犯罪事実が顕著な特徴を有していること、②①が起訴に係る犯罪事実と相当程度類似することから、①自体で両者の犯人が同一であることを合理的に推認させることが認められる必要があるということを意味しています。
具体的に言えば、世界で1人しかできない方法の開け方で金庫の鍵を開け中の物を取り出したという前科がある人が再び実行したような場合に、その人が犯人であるかを認定する場合があげられます。
しかし、このような顕著な特徴を有することは滅多にありません。したがって、通常は、前科があることから、犯人であることを認定することはできません。
なぜ、前科がある被告人を犯人であると認定してはならないのでしょうか。それは、「前科、特に同種前科については、被告人の犯罪性向といった実証的根拠の乏しい人格評価につながりやすく、そのために事実認定を誤らせるおそれ」があるからです。
要するに、前科があることから、①被告人に犯罪をするという傾向があることを認定し、さらに、①から②今回の犯罪も①の傾向が発現したからであるという事実を認定することになります。しかし、前科の存在から①を推認することも、①から②を推認することも根拠に乏しい推論であるといえます。そこで、このような不合理を避けるために、原則として、前科から犯人であることを認定しないことを表明したのがこの判例だと言えるでしょう。
したがって、前科があることは、被告人が犯人であるかどうかを認定する場面においては、原則としては不利に働かないといえるでしょう。
犯罪が成立するためには、原則として、犯罪事実の認識・認容、すなわち故意が必要になります。このことを故意犯処罰の原則といいます。
例えば、「お金を騙し取るつもりだった」というような被告人の自白がないような場面において、故意を認定するためには、さまざまな事実から推論の過程を経て認定する必要があります。
そのような事実を認定する際に、前科を利用することができる場合もあると最高裁は判例で示しました(最決昭和41年11月22日刑集20巻9号1035頁)。
その事件は、過去に行った行為が詐欺罪で処罰された経験があったという事案でした。その際に、今回起訴された事件においても、前科の内容となっている詐欺の手法と同じだったことから、違法であると認識していたはずであると認定するための根拠として前科が用いられていました。
被告人が更生を図ることができるか、再犯をする可能性がないかという犯罪事実それ自体に関わらない事実として量形上考慮されることになります。
その際には、前科があることが再犯の可能性を示唆する事情として不利に働くことがあります。すなわち、前科があるにもかかわらず、また犯罪をしたことが、これからも再犯をする可能性を示唆するものだという考え方です。
以上でみてきたように、前科があることは、量刑の場面や一部の犯罪事実の認定の場面では不利に働くことがあります。その一方で、前科があるから被告人は犯人であるという立証は許されません。
具体的な場面において、前科があることが不利に働くかについては、弁護士までお尋ねください。