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今回は、事実が真実であると誤信していた場合に名誉毀損罪が成立するか否かを紹介させていただきます。
以上のような問いに対して、判例の考え方を示したのが夕刊和歌山時事事件(最判昭和44年6月25日刑集23巻7号975頁)です。そこで、同事件の事案とその判示内容を併せてご紹介させていただきます。
名誉毀損罪は、人の外部的名誉、すなわち、人の社会的評価を保護するために設けられた犯罪です。具体的には、人の社会的評価を低下させるに足りる事実が不特定または多数人に対して摘示することで成立します。
名誉毀損罪の成立要件についての詳細は、こちらをご覧ください。
名誉毀損罪が成立したとしても、処罰を免れることができる場合があります。それが、刑法230条の2の場合、すなわち、公共の利害に関する特例の場合です。同条は、名誉の保護と表現の自由との調整を図るために設けられた規定になります。
刑法230条の2が「これを罰しない」としている意味については学説上対立があります。処罰が阻却される事由を定めたものだとする処罰阻却自由説が立案担当者の考え方でした。しかし、この処罰阻却事由説によると、表現の自由を行使することが違法な行為だと評価してしまうことになります。このように憲法上認められた基本的人権であるはずの表現の自由行使を違法な行為だと評価するのは適切ではないという批判が多くありました。
そこで、名誉毀損罪に当たる行為がされたとしても、公共の利害に関する場合には、違法性が阻却されるとする違法性阻却事由説が現在の通説的な考え方です。
①公共の利害に関する事実に係ること(事実の公共性)、②目的が専ら公益を図ることにあること(目的の公益性)、③摘示された事実が真実であることの証明があること(真実性の証明)という3つの事実が認められる必要があります。
このうち、真実性の証明の要件について簡単にご紹介をします。
「証明」という文言から、被告人側で摘示された事実が真実であったことを積極的に証明する必要があります。したがって、摘示された事実があったか否か真偽不明の状態に陥った場合には、刑法230条の2は適用されず、名誉毀損罪が成立することになります。
被告人は、発行している『夕刊和歌山時事』に、『吸血鬼Aの罪業』と題し、A本人または同人の指示のもとにAが経営している『和歌山特だね新聞』の記者が和歌山市役所土木部の某課長に対して、『出すものを出せば目をつむつてやるんだが、チビリくさるのでやったるんや』と聞こえよがしの捨てせりふを吐くなどの市役所の職員を恫喝したとする記事を掲載、頒布した結果、Aの名誉を毀損しました。
それでは、次に、この事案に対する最高裁の判断した内容を紹介させていただきます。
「刑法230条の2の規定は、人格権としての個人の名誉の保護と、憲法21条による正当な言論の保障との調和をはかつたものというべきであり、これら両者間の調和と均衡を考慮するならば、たとい刑法230条の2第1項にいう事実が真実であることの証明がない場合でも、行為者がその事実を真実であると誤信し、その誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らし相当の理由があるときは、犯罪の故意がなく、名誉毀損の罪は成立しないものと解するのが相当である。」
旧判例は、刑法230条の2は、処罰を阻却する事由だと考えていました。このように考えると、同条に当たる事実は違法性や責任を阻却する事由には当たらないことになります。そして、仮に真実性の証明に失敗した場合は、真実であると誤信していた場合であっても、同条に当たる事実が認められない以上、同条の適用により処罰を免れることはできないとしていました(最判昭和34年5月7日刑集13巻5号641頁)。
これに対して、本判例は、旧判例を変更して、刑法230条の2第1項にいう事実が真実であることの証明がない場合でも、行為者がその事実を真実であると誤信したときは、「その誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らし相当の理由がある」という条件を満たせば、名誉毀損の罪は成立しないとしています。
判旨を読むと、犯罪の故意がないから名誉毀損罪は成立しないと示しています。仮に、刑法230条の2を違法性阻却事由だと考えると、違法性阻却事由があると誤信した場合には責任故意が阻却されます。したがって、この判例は、同条を違法性阻却事由だと考えるものだと評価できるでしょう。
上記の判例によると、刑法230条の2の真実性の証明が失敗した場合であっても、真実性の誤信した場合には、その誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らし相当の理由がある場合に限って、名誉毀損罪が成立しないことになります。
具体的な事案において、この判例の事情を主張すべきかについては、弁護士までお問い合わせください。