
よい ゴール0120-410-506
今回は、窃盗罪の主観的な構成要件要素である不法領得の意思について、さまざまな事例を用いながらご紹介させていただきます。
窃盗罪は、主観的な構成要件要素として、故意、すなわち、犯罪の認識・認容だけでなく、不法領得の意思が要求されます。
それでは、この不法領得の意思とはいったいどのようなものなのでしょうか。
以下では、不法領得の意思について、さまざまな事例を紹介しながら、判例がどのように考えているかをご紹介させていただきます。
不法領得の意思とは、「権利者を排除して他人の物を自己の所有物としてその経済的用法に従いこれを利用もしくは処分する意思」(大判大正4年5月21日刑録21輯663頁)であるとされています。
この不法領得の意思の定義から、以下の2つの要素を抽出することができます。
①権利者排除意思(権利者を排除して他人の物を自己の所有物としてふるまう意思のこと)
②利用処分意思(その物の経済的用法に従って利用処分する意思のこと)
このような不法領得の意思は、条文上明確に要求されているわけではありません。しかし、どのような意思を要求するかについての学説上の争いはありますが、多くの説が不法領得の意思自体を要求することについて合意しています。
それでは、なぜ、この不法領得の意思は主観的な構成要件要素として要求されているのでしょうか。この点について、以下でご紹介させていただきます。
権利者排除意思は、短時間の利用という軽微な法益侵害しか伴わない使用窃盗を不処罰とするために要求されています。
利用処分意思は、毀棄隠匿罪、例えば、器物損壊罪と区別をして、刑の違いを正当化するために要求されています。
この事案は、上述の不法領得の意思の定義についてはじめて示した事件です。具体的には、学校の教員が校長先生を困らせる目的で教育勅語を教室の天井裏に隠したという事案です。
この事案においては、物を隠すという意思は不法領得の意思のうち、利用処分意思が認められないことから、窃盗罪は成立しないことを判示しました。このような事案においては、器物損壊罪が成立するにとどまることになります。
この事案は、刑務所に服役する目的で財物を窃取した被告人が、窃取後すぐに警察に出頭したという事例です(広島地判昭和50年6月24日刑月6号692頁)。
この事案において、裁判所は、窃盗罪が成立しないという判断を示しました。
刑務所に服役する目的で財物を窃取しているということは、その財物について経済的利用処分意思に欠けることになります。このような理由から、窃盗罪は成立しないという結論が妥当であるといえましょう。
これに対して、傍論ではありますが、刑務所に入る目的で万引きをした者に窃盗罪が成立すると示した裁判例もあります(神戸地判平成15年10月9日LEX/DB28095364)。
以上でみてきたように、刑務所に入る目的で窃盗を犯した場合の判断については、下級審裁判所の判断も分かれているといえることから、注意をする必要があります。
この事案は、不正投票目的で投票用紙を持ち出した者が窃盗罪に問われたという事案です(最判昭和33年4月17日刑集12巻6号1079頁)。
利用処分意思の定義は、「その経済的用法に従いこれを利用もしくは処分する意思」というものでした。そのうち、「経済的用法に従い」という部分について、判例はその内容を緩やかに考えています。
この事案においても、最高裁は「経済的用法」の内容を緩やかに考えて、窃盗罪の成立を肯定しました。
厳格に考えると、投票用紙は、投票時間に投票所で選挙権を有する者が適切な手続に従って使用したときにはじめてその経済的用法に従った利用がなされるといえます。そうすると、不正目的での投票用紙の使用は「その経済的用法に従った利用」と評価できない可能性もあります。
しかし、最高裁は、投票用紙を投票用紙として利用する意思があった以上は、窃盗罪が成立すると判断しました。
以上のように、最高裁は、財物の本来的な用法とは異なる場合についても、不法領得の意思を認めています。
以上でみてきたように、判例は、不法領得の意思を、権利者排除意思と利用処分意思の2つから構成されるものであると考えています。
そして、利用処分意思については、財物をその経済的用法に従って利用処分する意思であると定義していますが、経済的用法の内容を緩やかに考えています。
以上のような、不法領得の意思が認められない場合には、窃盗罪は成立しません。ただし、軽微な使用窃盗の場合には刑罰が科されませんが、利用処分意思が認められない場合には、器物損壊罪が成立する可能性もあります。
具体的な事案によっては結論が異なることもありますので、刑事事件でお困りの方は弁護士までお問い合わせください。