所有権に基づく不動産明渡請求訴訟の請求の趣旨と訴訟物について | 弁護士法人リコネス法律事務所

リコネスコラム

所有権に基づく不動産明渡請求訴訟の請求の趣旨と訴訟物について

第1 はじめに

 所有権を有する土地を第三者に無断で占有されたとき、所有者は当然にその排他性を回復すべく不動産明渡訴訟を提起できます。しかし訴状の「請求の趣旨」や「訴訟物」を適切に定義しなければ、判決の執行段階で想定外の障害が生じるおそれがあります。本稿では、以下の簡潔な事例を手がかりに、所有権に基づく返還請求権を訴訟で行使する際の論点を整理します。

 〔事例〕
 Xは甲土地の登記名義人である。ある日、Xが現地を確認したところ、見知らぬYがプレハブ小屋を設置して居住していた。Xは占有排除のためYに対し土地明渡訴訟を提起した。

第2 請求の趣旨――何をどう書くか

 民事訴訟では救済の具体的内容を「請求の趣旨」に明示する必要があります。この事例でXが求める主たる救済は、甲土地の占有を排除し物理的支配を取り戻すことです。したがって請求の趣旨は、「被告は原告に対し、甲土地(所在・地番等を特定)を明渡せ。」と記載するのが典型例となります。

 損害金の発生が見込まれる場合、立退完了時まで日割りで不法占有料を附帯請求として併合できます(民事訴訟法143条)。附帯請求を組み込むときは、(1) 支払義務の範囲、(2) 利息発生日、(3) 遅延損害金率を明確にし、請求を独立の訴訟物として併合する旨を忘れないでください。

第3 訴訟物――「何個の権利」を争うか

1 物権的請求権の行使の可否

 民法は所有権に基づく物権的請求権を明文化していませんが、所有権の排他性と民法202条が想定する「本権の訴え」から当然に認められると解されています。占有訴権より強力な権利保護が必要だからです。

2 物権的請求権3類型

 所有権に基づく救済手段は、(ア) 返還請求権、(イ) 妨害排除請求権、(ウ) 妨害予防請求権の三つに整理できます。事例はYの「占有」という形態による権利侵害であるため、Xが行使するのは返還請求権に当たります。

3 訴訟物の特定方法

 不動産明渡訴訟で訴訟物を特定するには、次の要素を訴状で具体的に示す必要があります。

 ・当事者(甲土地所有権者X/占有者Y)
 ・権利の内容(返還請求権か妨害排除請求権か等)
 ・対象物(甲土地。地目・地番を漏れなく記載)

4 訴訟物の個数と併合

 所有権が一つ、侵害態様が占有一つ――つまり「所有権に基づく返還請求権 1個」が訴訟物となります。不法占有料を附帯請求すると、金銭債権がもう1個追加され「単純併合」の形を取る点に注意してください。

5 事例へのあてはめ

 以上をあてはめると、Xが提起した本訴の訴訟物は、所有権に基づく返還請求権一個のみ。不法占有料を附帯請求しないかぎり、訴訟物は追加されません。判決主文に「明渡期限」と「期限徒過後は代替執行を許す」旨を加えることで、強制執行段階の実効性を高めることができます。

第4 立証責任と訴訟戦略

 返還請求訴訟では、①所有権の存在と②相手方による占有という二つの主要事実を原告が主張立証すれば足ります。これに対し③正当な占有権原(賃貸借・使用貸借・時効取得など)の存在は被告側の抗弁事実です。民法188条による「占有の適法推定」は、本類型では及ばないとした最高裁判例(最判昭和35年3月1日)が現在も実務を支配しています。被告が契約書などを提出できない場合、原告が敗訴する可能性は著しく低下します。

 なお、賃貸借関係の成否や契約終了後の明渡手続の詳細は、賃貸借契約が終了したときの明渡請求で詳述しています。証拠として契約書を提出する方法や文書提出命令の活用は、それぞれ訴訟で証拠となる文書の提出方法および文書提出命令が発令される要件をご参照ください。

第5 書面モデル(抜粋例)

 第1 請求原因
 1 原告は甲土地(所在・地番略)を所有する。
 2 被告は現在甲土地を占有する。

 第2 認否
 請求原因1・2はいずれも認める

 第3 抗弁(正当な占有権原)
 1 原告と被告は令和○年○月○日、甲土地につき賃料月額3万円の賃貸借契約を締結した。
 2 被告は同契約に基づき甲土地の引渡しを受けた。

 第4 抗弁に対する認否
 抗弁1・2はいずれも否認する。

 ※実務では別紙「土地目録」「物件目録」を適宜添付し、明渡期限や代替執行条項を主文に含めることが推奨されます。

第6 まとめ

・所有権に基づく返還請求権を行使される場合、訴訟物は通常「1個」として足りるのが一般的です。
・附帯損害金を併せて請求する際は、訴訟物が追加されるため、請求の併合形態(単純併合)を訴状で明確にしておく必要があります。
・立証責任の分配を踏まえると、原告側は所有権の帰属および被告による占有の事実を簡潔かつ的確に主張・立証することが求められます。一方、被告側は占有権原の存在を具体的な資料で裏付ける必要があります。
・判決主文の書きぶりによっては強制執行の実効性に大きな影響が生じる可能性があるため、訴状作成の段階から執行までを見据えた記載を検討することが必要です。

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