名誉毀損の事前差止めは認められる?北方ジャーナル事件から要件を弁護士が解説 | 弁護士法人リコネス法律事務所

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名誉毀損の事前差止めは認められる?北方ジャーナル事件から要件を弁護士が解説

 出版・記事・インターネット投稿を発信前に止められるのは例外的な場合です。名誉毀損行為に対する事前差止めの要件、表現の自由との関係、仮処分で求める場合の注意点を、最高裁判例をもとに解説します。

1 名誉毀損の事前差止めが問題となった北方ジャーナル事件とは

 今回は、名誉毀損行為に対して、出版などの事前差止めをすることができる要件についての判断を示した最高裁の判例である北方ジャーナル事件について紹介させていただきます(最判昭和61年6月11日民集40巻4号872頁)。

2 名誉毀損行為に対して事前差止めを求める法的根拠|人格権としての名誉権に基づく差止請求

 名誉毀損行為がなされた場合にとることができる法的措置には、不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条、同法710条)だけでなく、人格権としての名誉権に基づく差止請求も認められると考えられています。

 【内部リンク:名誉毀損行為をしたときに民事上のどのような責任を負いますか

 具体的には、「人格権としての名誉権に基づき、加害者に対し、現に行われている侵害行為を排除し、又は将来生ずべき侵害を予防するため、侵害行為の差止めを求めることができる」と考えられています。

 その理由は、「人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価である名誉」は、「生命、身体とともに極めて重大な保護法益であり、人格権としての名誉権は、物権の場合と同様に排他性を有する権利というべき」だからです。

 物権の場合には、侵害行為を妨害排除する権利や将来生じる侵害を予防するための侵害行為の差止請求権が認められています。この考え方を名誉権にも応用した考え方だということができます。

3 出版物の事前差止めは「検閲」に当たるのか|憲法21条の検閲禁止と司法判断による差止めの関係

 出版物を事前に差し止めることは、憲法21条が禁止している検閲に該当する可能性があります。

 憲法21条の検閲とは、「行政権が主体となつて、思想内容等の表現物を対象とし、その全部又は一部の発表の禁止を目的として、対象とされる一定の表現物につき網羅的一般的に、発表前にその内容を審査したうえ、不適当と認めるものの発表を禁止することを、その特質として備えるもの」です。

 しかし、出版の差止めは、個別的な私人間の紛争について、司法裁判所が審理判断してなされるものであることから、「検閲」には当たらないとしています。

4 名誉毀損の事前差止めが認められる要件|公共の利害に関する表現は原則として差止め不可

 表現行為を事前に抑制することは、表現が到達すること方法をなくしてしまし、公の批判の機会を奪うことになります。また、事前に抑制することは、事後的なものと異なり、予測に基づいて行われるものなので、広汎になされる可能性があります。また、濫用されてしまうおそれもあります。

 以上のような特徴から、表現行為の事前抑制は、表現の自由に対する重大な制約に当たります。そこで、本判例は、表現行為に対する事前抑制は、厳格かつ明確な要件のもとでのみ許されるとしています。

 そして、公共の利害に関する事項についての事前差止めについては、原則として許されない旨を示しました。

 しかし、例外的に、次の要件を充足する場合には、事前差止めが認められるとしています。

 ①その表現内容が真実ではないこと

 または

 ②それが専ら公益を図る目的のものではないことが明白であること

 かつ

 ③被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被るおそれがあること

 ①または②と③の要件を充たすときは、そのような表現行為はその価値が被害者の名誉に劣後することが明らかです。さらに、有効適切な救済方法としての差止めをする必要も認められます。

 もっとも、ここで示されている要件は厳格なものであり、単に名誉毀損に当たり得る表現であるというだけで、事前差止めが認められるわけではありません。

 特に、公共の利害に関する事項については、事前差止めは原則として許されず、例外的な場合に限って認められるものと考える必要があります。

 【内部リンク:名誉毀損罪はどのような場合に成立しますか

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5 仮処分で名誉毀損表現の事前差止めを求める場合|口頭弁論・審尋の必要性と例外的に認められるケース

 最後に、この判例は、公共の利害に関する事項についての表現行為に対し、その事前差止めを仮処分手続によって求める場合についての判断も示しています。

 仮処分手続とは、現在の民事保全の手続のことです。

 民事保全手続は、仮に権利を迅速に定める手続であることから、口頭弁論ないし相手方の審尋を必要としてはおらず、立証も証明ではなくそれよりも一段階低い疎明で足りるものとしています。

 しかし、そのような手続だと表現の自由を確保するうえで充分だとはいえません。

 しかも、表現行為者側の主たる防禦方法は、その目的が専ら公益を図るものであることと当該事実が真実であることとの立証にあります。

 そこで、「事前差止めを命ずる仮処分命令を発するについては、口頭弁論又は債務者の審尋を行い、表現内容の真実性等の主張立証の機会を与えることを原則とすべき」だと判断しました。

 ただし、例外的に、「差止めの対象が公共の利害に関する事項についての表現行為である場合においても、口頭弁論を開き又は債務者の審尋を行うまでもなく、債権者の提出した資料によつて、その表現内容が真実でなく、又はそれが専ら公益を図る目的のものではないことが明白であり、かつ、債権者が重大にして著しく回復困難な損害を被る虞があると認められるときは、口頭弁論又は債務者の審尋を経ないで差止めの仮処分命令を発したとしても」、憲法21条に違反しないとしました。

 なぜならば、このような要件を具備している場合には、表現行為者に主張立証の機会を与えないことによる実害はないといえるからです。また、一般に満足的仮処分の決定に対しては債務者は異議の申立てをするとともに当該仮処分の執行の停止を求めることもできるから、表現行為者に対しても迅速な救済の途が残されているといえます。

 【内部リンク:民事訴訟の場面において証拠となる文書はどのように提出しますか

6 名誉毀損への対応は事前差止め・削除請求・発信者情報開示を総合的に検討

 以上のように、名誉毀損に当たる可能性のある表現であっても、発信前に事前差止めを求めることは、表現の自由との関係で慎重に判断されます。特に、公共の利害に関する事項については、事前差止めは原則として許されず、例外的な事情がある場合に限られます。

 そのため、名誉毀損への対応としては、事前差止めだけでなく、発信後の削除請求、発信者情報開示請求、損害賠償請求などを含めて検討することが重要です。インターネット上の投稿や記事によってお困りの場合には、投稿内容やURL、スクリーンショットなどの証拠を保存したうえで、早めに弁護士へご相談ください。

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